『馬鹿』と書いて『ばか』と読む。では、馬と鹿のどちらが『馬鹿』なのか。
…ということを、ずっと前に某番組でやっていた。
実験の結果は、『馬の方が馬鹿』ということであった。
顔つきは馬の方が賢そうに見えるが、やはり顔だけで判断してはいけない、と言う事だろうか。

 ところで、鹿について、こんなエピソードがある。
姉と奈良へ遊びに行ったときのことだ。
奈良公園では、たくさんのかわいい鹿が、観光客を出迎えてくれる。
ただ、私達がやってきた時期は、運悪く鹿の発情期だったらしく、公園のいたるところに『鹿にちょっかいを出すな』
という注意書きが貼り付けられていた。
奈良公園にいる鹿のほとんどはツノが切られているが、中にはツノが伸びはじめていた鹿もいた。
突かれたら、どうなるかわからない。私と姉はビビッていた。
愛らしい顔で、温和にも見えるしかだが、やはりツノは恐い。しかも発情期だ。
しかし、みんな機嫌がよかったのか、人に襲いかかろうとする鹿は一頭もおらず、のんきに日向ぼっこをしたり、
観光客にシカせんべいをねだったりしていた。

 鹿の好物であるシカせんべいだが、感心なことに、店で売っている鹿せんべいを食べようとする不届き者は一頭もいなかった。
厳しくしつけられているようで、彼らが食べるのは、観光客がきちんと買ったシカせんべいのみである。
『店で売っているもの』と『お客が買ったもの』を区別できるという点では、賢いのかもしれない。私はそう思った。
その時までは。

 客がシカせんべいを購入した途端、鹿たちの目の色が変わる。
そして、客(というよりも、シカせんべい)に向かって猛烈なアタックを繰り返す。
「はやくくれ、よこせよこせ」と言っているかのようだ。
買ってからアタックするならまだしも、買っている途中でアタックをかける輩もいた。
『待って』といわれても待てるわけがない。鹿というヤツはそういうヤツだ。
そして、シカせんべいがなくなるとさっさと退散して行く。なんとも現金なヤツらだ。

 ところでこのシカせんべい、5枚1セットで売られていることが多い。
1枚ずつやるか、豪快に2〜3枚重ねてやるかは客の自由だ。
だが、鹿はそんなことお構いなし。俺が先だいいや私だとわらわら寄ってきては、一気に持っていかれてしまう。
中には5枚全部持って行ってしまう奴もいる。実際、私もやられた。
しかし、1枚だけなら薄いシカせんべいでも、5枚となると相当な厚さになる。
鹿のちいさな口に、これだけ全部入るだろうか。答えは「NO」。
5枚一気に食べようとしたこの鹿は、口に咥えたものの食べきれず、せんべいのかけらを、ボロボロボロと地面にこぼしていた。
そこにはたくさんの観光客がいて、みんなその欲張り鹿を見ていた。
欲張り鹿による失態は、皆の目に映った。
鹿の目の前に立ってみていた高校生の男の子が、笑いながら叫んだ。

「お前馬鹿だろ!!」

 私は確信した。しかも、やはり『馬鹿』なのだと。

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