むかしむかし。

あるところに、ひとりの道化師が住んでいました。

この道化師は、ちょっとおかしな人でした。

ご飯よりも、宝石よりも、お金よりも。

なにより死体を、愛していました。

*

ある日。

道化師は、道端で倒れている女の人を見つけました。

まだ、息をしています。生きているのです。

道化師はしゃがみこみ、その人に『大丈夫ですか?』と話しかけました。

すると、倒れた女の人は『おなかが空いた』と答えました。

道化師は、かわいそうだと思い、その人に、自分のおにぎりを一つ、分けてあげることにしました。

女の人はそれを受け取り、がつがつとおにぎりを食べ始めました。

道化師は、それをニコニコと微笑みながら見ています。

*

お腹がいっぱいになった女の人は、道化師に『ありがとう』とお礼を言いました。

『どういたしまして』と、道化師が言いました。

女の人は『このご恩は一生忘れません』と言って、そこから立ち去ろうとしました。

その直後です。

突然、女の人がまた地面に倒れ伏したのです。

女の人は、激しく咳き込んでいます。咳き込むたびに、口から赤い血が飛び散ります。

実は、道化師が渡したおにぎりには、毒が入れられていたのです。

女の人は、目を真っ赤にして、そのまま死んでしまいました。

女の人が死んでしまったことを確認すると、道化師はにたーっと笑って、女の人を担ぎ上げました。

そして、そのまま、どこかへ行ってしまいました。

*

この道化師の噂は、町中に広がりました。

死体好きの殺人道化師として、彼は有名になりました。

道化師も、自分が有名になったことを知って、『ボクも出世したものだなあ』と、笑いながら言いました。

*

道化師はまたいつものように町へ出て、たくさん人を殺しました。

彼はキレイなものが好きでしたから、なるべくキズつけないように殺しました。

道化師の噂はどんどん広まりました。

道化師はとても有名になり、世界中の誰もが知っている、有名人となりました。

道化師は『いろんな人に名前を知ってもらえるだなんて、ボクは幸せものだなあ』と、嬉しそうに言いました。


そして、ついに。

道化師はたくさん人を殺したため、ついに捕まってしまいました。

長い長い裁判の結果、彼は死刑を命じられました。

大きなギロチンで、首を真っ二つに切る刑です。

それを聞いて、彼はとっても喜びました。

『なんてステキだろう。ボクの大好きな死体に、ボク自身がなれるなんて。ボクは本当に幸せものだなあ』

でも、少し不満も漏らしました。

『体が切れちゃうのはいただけないなあ。首吊りとか、体が繋がったままの方がよかったなあ』

*

刑が執行される日。

道化師は、ニコニコ嬉しそうに、処刑場へ向かっていきました。

周りからは、町人からの罵声が飛び交います。

でも、彼は気にしておらず、むしろとても嬉しそうに、手を振っていました。

『やっぱり、ボクは幸せものだ。こんなたくさんの人たちに囲まれて、ボク自身が死体になれるなんて!』

そして、彼はギロチンで処刑されました。

*

それからは、もう誰も、その道化師の話をすることはありませんでした。

そして、みんな、幸せに暮らしました。

めでたしめでたし。


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