あるところに、人間に飼われているウサギがいた。
このウサギは、毎日美味しいものを与えられ、暖かい寝床も与えられ、何不自由なく暮らしていた。
動かなくてもいい暮らしなので、すっかりぶよぶよのボンレスハムのようになっていた。

人間に飼われているウサギが住んでいる家の近くには、野良として暮らしているウサギがいた。
このウサギは、毎日食べ物を探し、寝床を探し、天敵に追われながら、大変な暮らしをしていた。
動かなくてはいけない暮らしなので、すっかりがりがりのもやしのようになっていた。

ある日、ハムのようなウサギが、もやしのようなウサギに言った。

「キミも、そんな地べたを這いずり回らないで、人間と一緒に暮らせばいいのに」

すると、もやしウサギはこう言った。

「誰かに縛られる生活なんてゴメンだよ。ボクは毎日好きなところへ行く。好きなところで遊ぶ。好きなところで寝る。それでボクは幸せなのさ」

「ばっかみたい」

ハムウサギは言った。

「そんなことをしなくても、毎日温かいご飯が出てくる。暖かい寝床でだって寝られるんだぜ」

「キミは知らないんだ。人間の恐さを」

「オオカミに比べたら大分マシさ。彼らはキバもない、鋭いツメもないんだから」

「いつか後悔する時が来るよ」

「キミこそね」


そこで、ハムウサギともやしウサギは別れた。




翌日。

もやしウサギは、凶暴なオオカミに喰われてしまった。
ハムウサギは、暖かい家の中で、その様子を見ていた。

「ほうら見ろ」

ハムウサギは勝ち誇った顔をした。

「ボクの方が正しかった。こっちの方が安全さ」




その翌日。

人間に飼われていたハムウサギは、人間の手により火あぶりにされ、食べられてしまった。




「ほうら見ろ」


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