(どんどんどん どんどんどん) どんどん壁を、叩いてる。 男が壁を、叩いてる。 どんどんどんどん叩いてる。 (どんどんどん どんどんどん) 壁を叩く、男は一人。 叩く理由は、ただ一つ。 (どんどんどん どんどんどん) 壁の向こうに、女が一人。 しくしくしくと、泣いている。 壁から出られず泣いている。 しくしくしくしく泣いている。 (どんどんどん どんどんどん) 男は壁を叩いてる。 どんどんどんと、叩いてる。 叩く理由はただ一つ。 女を助けだすために。 どんどんどんどん叩いてる。 (どんどんどん どんどんどん) 何十年が、経っただろう。 何百年が、経っただろう。 何千年が、経っただろう。 何万年が、経っただろう。 (どんどんどん とんとんとん) とんとん壁を、叩いてる。 男が壁を、叩いてる。 とんとんとんとん叩いてる。 (とんとんとん とんとんとん) 顔はしわしわ、しわむくれ。 髪はながなが、まっさらに。 腕はほそぼそ、棒のよう。 足はがくがく、折れそうだ。 (とんとんとん とんとんとん) 男はとんとん叩いてた。 壁をとんとん叩いてた。 叩く理由はただ一つ。 壁の向こうの女のために。 とんとんとんとん叩いてる。 (とんとんとん とんとんとん) 叩かれつづけた壁はもう。 ぼろぼろがらがら限界だ。 これはたまらん降参だ。 (とんとんとん とんとんとん) 壁はがらがら、崩れていった。 がらがらがらがら、崩れていった。 何十年も、叩かれつづけ。 何百年も、叩かれつづけ。 何千年も、叩かれつづけ。 何万年も、叩かれつづけ。 壁はついに、崩れていった。 がらがらがらがら、崩れていった。 (とんとんとん とんとんとん) 男はよろよろ、駆け寄った。 女に向かって、駆け寄った。 しかし、女はいなかった。 いたのは、白い骨だけだ。 (とんとんとん とんとんとん) 何十年も、待ちつづけ。 何百年も、待ちつづけ。 何千年は、むりだった。 何万年には白い骨。 (とんとんとん とんとんとん) 男はわんわん、泣き出した。 わんわんわんわん、泣き出した。 腕がじんじん、痛かった。 じんじんじんじん、痛かった。 (とんとんとん とんとんとん) |